夢の話

夢を見た。夢の中で私は眠くて眠くて仕方がなかった。これまでの人生で感じたことの無い眠気であった。夢の中の景色には常に濃い霧がかかっていて、そこで出会う人々の顔は誰も彼もが霞んでいた。眠気と濃霧のせいで誰と話しているのかも分からず、私はただただ苛ついている。足取りも覚束無い。病み上がりに布団から出て歩いている時のような、どこまでも続く砂丘で足を取られて上手く前に進めないような。そんな感覚がずっと続いていた。見慣れた景色と異郷の景色が入り混ざり、私は混乱していた。目指す場所に辿り着くことが出来ないのだ。そして自分が何処に行きたいのかも、今の私には分からないのだ。その場所では誰かが待っていて、私に早く来いと電話で急かし続ける。その着信音が鳴る度に、私は尽く道を間違え、電車に乗り遅れ、一向にその場所に近づく事ができない。とても近い場所のはずなのに、その時の私にはその道のりは複雑すぎた。途中で知り合いに会っても、全く頓珍漢な方向に連れて行かれて余計に苛立ちが募る。景色はどこまでも灰色である。その間もずっと眠気が、ただただ重い眠気が、梅雨の湿気で顔に張り付く髪のように、私を離してはくれぬのであった。

 

何度も目が覚めたような気がするし、長い間眠り続けていたような気もする。何せ夢の中でも眠いので、現実と夢の区別がつかなかったのだ。その感覚はまるで熱に浮かされている時のものようだった。誰かがこの霧を払ってくれぬかと、私はずっと願っていた。